D. SXR 電力むかしばなし
その 1. 佐久間 FC と九官鳥

SXR 現役時の仕事は電力関連で、いろんなことを並列してやっていたが、この写真の 「佐久間 FC」 の心臓部である機器が、1993 年に役目を終えるまで 20 年以上ずっと担当だった。
エフシー (FC) というのは周波数変換所の英語の頭文字。 「佐久間周波数変換所」 というのは長すぎるんで、エフシーと呼んでいた。
東日本の 50 Hz と西日本の 60 Hz 間の電力融通を図る設備だ。 交流を一旦直流にした後、異なった周波数の交流に戻す。 容量は 300 MW (30 万キロ・ワット)。
場所は佐久間ダムのすぐ下、発電所のごく近くだ。 新幹線豊橋駅で飯田線のりかえ、中部天竜下車。 写真左奥の人専用のつり橋をわたって FC へ入る。 正門脇の池の鯉が餌を期待してわっと寄ってくる。 まあ、そういう場所だ。
この正門の前に散髪屋があり、九官鳥を飼っていた。 冬だったか、そこで散髪してもらっていると、女性の店主が風邪気味なのか鼻水をすする、と、その音をまねる。 誰かがくしゃみをすると即座にそれもまねる。 これが実にうまい。 店主が、「いやねえ、きゅーちゃん、やめなさい」、と呼びかけるが、知らん顔をしている。 店の外でクルマがエンジンをかけようとしているがなかなかかからない。 すると、当然のようにそのスターター始動音をうまくなぞる。 九官鳥は純粋な機械音でもまねることができるのだ。
当時の飯田線は大雨のときよく不通になった。 ある大雨のとき、どうしても行く必要があり、不通の豊橋側でなく、反対の諏訪湖側から下りていった事がある。 途中の天竜川は途方もない水量で、水煙をあげて下流、上流、右、左どちらの方向にも流れているように見え、恐ろしかった。

左の写真が、その心臓部の水銀整流器群。
これで全体の半分。 上の写真一番奥の長い建屋、100 m 位ある、に端から端まで収まっていた。
これは電源開発(株)がスエーデンから輸入したもの。 整流器といっても、300 MW を融通するので、電圧はプラス/マイナス 125 kV (12 万 5 千ボルト)、電流は 1200 A。
それでこの整流器群は、写真のような長い絶縁碍子上に乗った特異な形状をしている。 思えば、「でんぱつ」、スエーデン側双方から、いろいろ勉強させてもらった。
上の写真 2 枚はいずれも電源開発(株)の小冊子 「佐久間周波数変換所」 昭和 39 年度版から。